求人情報から見る、僕らのクリエイティブ業界の“いま”

きっかけは、少し前に気になった一本のニュース

今年の夏、東京商工リサーチが「デザイン業の倒産が14年ぶりの高水準」というレポートを出していました。2026年上半期の倒産は40件で、そのほとんどが従業員5人未満の小さな会社だったそうです。

背景として挙げられていたのは、生成AIの普及、顧客企業のデザイン内製化、紙媒体中心のビジネスの苦戦など。どれも身に覚えのある話だな──で、ふと思ったのは、自分たちの足元はどうなんだろう、と。

自分たちの立ち位置は、意外とわかりづらい

昨今の業界の変化は、とにかく速い。この先どうなるかを前もって知ることはできないけれど、せめて自分たちがいまどこに立っているのかくらいは、認識しておくに越したことはないと感じます。

ところが、これが難しい。たとえばグラフィックデザイナーの「有効求人倍率」を調べてみても、見るデータによって景色がまるで違う。

  • ハローワーク(厚生労働省 job tag):0.14倍 求職者が求人の約7倍。完全な買い手市場に見える
  • 民間の転職市場(doda、2026年9月):1.25倍 求人が求職者を上回っていて、しかも上昇中

同じ職業なのに、片方は「デザイナーは余っている」、もう片方は「足りていない」と言っている。

これは、デザイン職の求人の多くがハローワークではなく民間の求人サイトや紹介で動いているから。公的な統計が間違っているわけではないが、僕らの業界の実感を映すには、少し目が粗い。

そこで、求人情報を「データ」として読んでみた

なので、求人サイトに並ぶ求人情報そのものに目を向けてみた。

求人票には、企業が「いま、どんな人に、どんな仕事を任せて、いくら払うのか」が具体的に書かれている。統計より鮮度が高いし、地域の事情がそのまま映る。市場の生の声と言える。

普段は応募する側が見る情報だけれど、少し視点を変えて、分析する側として名古屋のデザイナー求人を眺めてみた。

見えてきたこと

いくつかの傾向が浮かび上がってきました。

1. デザインを「社内で作る」企業が増えている

目についたのは、制作会社ではなく、メーカーや小売といった一般企業のデザイナー募集。たとえば大手スポーツ用品店が、プライベートブランド商品のパッケージやECページを作る人を募集していました。

メーカーがデザイナーを社内に抱え始めているというのは、全国ニュースで読んだ「内製化」が、この地域でもじわじわと進んでいるということなのかもしれません。

2. 「作業」には、相場がついている

DTPオペレーターの派遣は時給1,300円前後。未経験歓迎の募集も少なくない。決められたラフをもとに形にする仕事には、値段がつけやすい気がする。

3. 経験者には「考えること」が期待されている

一方で経験者向けの求人は、月給25〜40万円程度。仕事内容を読むと、制作だけでなく、企画やディレクション、ブランドづくりまで任せたいという書き方が目立つ。

転職サイトのdodaも、Webデザイナーの評価ポイントとして、デザインの技術に加えて「売上やKPIの達成に向けた取り組み」や「仮説検証・PDCAの経験」を挙げている。作ったものがどう見えるかだけでなく、それで何が変わったのかまで語れることが、求められ始めているということか。どの会社も、なかなか欲張りです…

4. 求人は減っていないが、選ぶ側に企業がいる

全国で見ると、クリエイター職の転職求人倍率は1.25倍(2026年9月)。1倍を超えているということは、求人の数が転職希望者の数を上回っているということ。少なくとも数字の上では、クリエイターが「余っている」わけではなさそう。

しかもこの倍率は、4月の1.09倍から5月1.11倍、6月1.14倍、7月1.18倍、8月1.21倍と、半年間ずっと少しずつだが上がり続けてる。だから、市場が冷え込んでいるとは言えない。

ただ、同じ9月の全職種平均は2.89倍。エンジニア(IT・通信)は12倍を超えている。クリエイター職はその半分以下で、営業や企画・管理、エンジニアといった職種と比べると、かなり低い水準。

人手不足が叫ばれる時代にあっても、クリエイターは「企業に選ばれる側」の買い手市場の職種でした。だからこそ企業は、求める人物像をはっきりさせて厳選採用ができる、とも言えます。

並べてみると

デザイン会社の倒産は増えている。
でもデザイナーの求人は増えている。
そして名古屋では、企業が自分たちでデザインを作るための人を探している。

仕事は消えたのではなく、場所と中身を変えながら動いている。 求人を並べてみると、そんな様子が見えてきました。

求人情報は、鏡だった

求人情報が「仕事を探すためのもの」であると同時に、僕らの業界がいまどこに向かっているかを映す鏡でもある、ということが今回わかりました。

企業が何を内製し、何に高いお金を払い、どんな人を探しているのか。裏返せば、外にいる僕らクリエイターに何が求められ、何が求められなくなりつつあるのかを教えてくれます。

統計やニュースだけでは見えにくい自分たちの立ち位置も、身近な求人を少し違う目で眺めるだけで、意外とくっきり見えてくる。知りたくなかった情報もあるけれど…

ありふれた求人サイトでも、そこには僕らがこれから考えるべきことのヒントがたくさん並んでいました。


参考データ

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